シュレディンガーのチョコパフェ/山本弘

ハヤカワSFJコレの「まだ見ぬ冬の悲しみも」が文庫化されるにあたり、
一つ短編を加え表題のタイトルに変えた文庫版で、表題作を含む7本の短編集になっています。

個人的に山本弘の小説はあまり好きではないのですが、
（過去妖魔夜行で説明のクドさに辟易した経験あり)
短編集なので全部ハズレという事はないだろう、と。

追記：読後の感想。
山本弘の入門書としてはいいんじゃないでしょうか。
って俺これ以外は妖魔夜行数本とギャラクシートリッパーと各種リプレイしか読んだことないけど。
何というか、良くも悪くも「書き手のキャラ」が強烈に出るタイプなので、
好きな人は好き、嫌いな人は嫌いとはっきり分かれるんじゃないかと。

続きを読むはネタバレを含むため読む予定のある人は回避推奨。

・シュレディンガーのチョコパフェ
相変わらずの山本弘というか...。
オタップルを主役に据え、オタップルの幸せを語るという...いや、いいですけどね。

オチはダブルクロスリプレイ・オリジンの最終巻と類似したネタ、というとTRPG者は分かるんだろうか。
ある意味みんな幸せになれる世界。

・奥歯のスイッチを入れろ
タイトルで分かる通り、009ですね。
亜音速で動く加速装置戦士(スピードに認識を追いつかせるため、思考速度は通常時の400倍）は超ハイスピードで動いているので慣性の影響で普通には動けず、本人の主観としてはものすごくゆっくり動かないとまともに動けないというイヤなリアルリアリティがとてつもなく山本弘。

そういえば、その辺のネタは昔NHK教育の「天才テレビくん」でやってた「恐竜惑星」でもあったなぁ。
「絶対的な宇宙の観測者が世界を決定できる」なんてネタもあったなあれ。
間違いなく脚本家はSFマニアか物理学マニアだ。
閑話休題。

・バイオシップ・ハンター
第三種接近遭遇の後での異種族との埋められないギャップとディスコミュニケーションを埋めようとする話、なのかもしれない。
「自分の物差しだけで相手を計るな！」という主張なのかも知れず、
そうするとオタクが今以上に迫害されてきた時代を生き抜いてきた山本弘の生の声だったりするんじゃなかろうか、というくだらない邪推が。
話としてはスタンダードな異種族との交流を描くSF。

・メデューサの呪文
モンティ・パイソンのスケッチ"The Funniest Joke in the World"(殺人ジョーク)を思い出した。
話自体はコメディではなく大真面目なんだけど...。
物質に対する認識も空想も喚起するイメージが同じであれば同じように脳内の電気信号が働いており、
結果としてそれらは変わらないものである、という発想自体はネタとしては好きです。

・まだ見ぬ冬の悲しみも
何かオチがもにょもにょする話。
「もしこんなことになったらオチとして面白いんじゃね？」
というワンアイディアで深い考えなしに書かれたんじゃなかろうか。

「過去の一地点と情報を入れ替える」という原理なのに、
このオチだと線形で時間を逆行させているということになるのでは...。
うーむ。

・7パーセントのテンムー
哲学的ゾンビをネタにしつつ、自我・意識とは？ということを書いているのか？
結局最後に「まあいいじゃん」で終わらせてしまうのはどうかと思う。

・闇からの衝動
「実在の敬愛する作家を主人公にして作品のモチーフを絡めつつ、
読んだ人が『そんなアホな！』と言うような話を」だそうで。
生々しく異形の生物を描く作家は実はその生物の落とし子だった！
個人的にはねちっこくグロ/ホラー描写をやっても良かったんじゃないかなー、と。